ジャズはいわゆる"ジャズ・スタンダード"という形でカバーが積極的に行われるという点では他の音楽ジャンルとは少し違った音楽である様に思う。
いわゆる『スタンダード・ブック』を持ち出せば1930年代~60年代の映画音楽やMiles Davisの楽曲やブルースからボサノヴァまで200曲近い楽曲が並んでおり、それらスタンダードからコード進行を学び、アドリブの為の理論を学び、作曲技法を学ぶということはジャズを勉強する上では至極当たり前で、今日でも疑うこと無く行われている。
今回は最近のジャズマンが新しい感覚を持ち込む事で変容するジャズ・レジェンドの楽曲に着目した記事。
いきなり結論から言うと、なんといっても影響力が大きいのはピアニスト:Herbie Hancockである。
Sly & The Family Stoneが1971年に発表した『There's A Riot Goin' On』(邦題:暴動)によって広まる「ファンク」がMiles Davisを始めとするジャズマンに与えた影響は今更語ることも無いと思うのだけれど、その影響でHerbie Hancockが結成した"The Headhunters"がここからの主題だ。
1973年に発表した『Head Hunters』には今やファンクセッションの常套句にもなっている"Chameleon"、1963年に『Takin' Off』で発表した"Watermelon Man"のファンクバージョンに並んで"Sly"という曲が収められている。
多くのインタビューでHerbie Hancockからの影響を語るRobert Glasperは、まさにHerbie Hancockの楽曲を多様にカバーしている筆頭だ。
デビュー作『Mood』(2004)の一曲目で盟友Bilalのボーカルを迎えて演奏した"Maiden Voyage"は、Blue Note移籍後二作目の『In My Element』(2007)においてもRadioheadの"Everything In Its Right Place"とのマッシュアップで演奏するという寵愛ぶり。
『Black Radio』で成功をおさめた彼のバンドRobert Glasper Experimentが初めて登場した『Double Booked』(2009)に収められた"Butterfly"は、Experimentの特徴であるChris DaveのJ Dilla的なドラミングとCasey Benjaminのボコーダーボイスを魅せる楽曲として機能している。
ちなみにRobert Glasperは1978年生なのでHeadhuntersを同時代的に体験しているわけではない。そこに同時代のエッセンスとしてRadioheadやJ Dillaを加えていった形と言えるだろう。
Experimentの初代ドラマーChris DaveのバンドChris Dave and the Drumhedzのライブでの定番曲"Actual Proof"はHeadhuntersの曲、"Nefertiti"はMiles Davis『Nefertiti』(1967)からの楽曲だが、この時のマイルス・バンドのピアニストはHerbie Hancockだ。
同じくドラマーのEric Harlandは今年発売されたアルバム『Vipassana』でHerbie Hancockの"Maden Voyage"をカバーし、Kendrick Scottは自身のバンドOracleで"I Have A Dream"をカバーしている。
ちなみにこの"Nefertiti"はこのマイルス・バンドでサックスを吹くWayne Shorterの楽曲だが、2014年のグラミーにもノミネートされたジャズ・ボーカリストのGretchen ParlatoはRobert Glasperプロデュースのアルバム『The Lost And Found』(2011)でショーター『Juju』(1964)の"Juju"をカバーしているし、トラディショナルな男性ボーカルで話題の Gregory Porterは『Night Dreamer』(1964)から"Black Nile"をカバーしている。
その他のアーティストからのカバーで言うとジャズ・ボーカルのJose Jamesはデビューアルバム『The Dreamer』(2008)で1990年代ヒップホップグループFreestyle Fellowshipの"Park Bench People"と並べて管楽器奏者のRoland Kirkのアルバム『Volunteered Slavery』(1969)から"Spirits Up Above"をカバーしている。
上げていくとキリがないのだが、ギタリストのGilad HekselmanはMichael Breckerが高速で演奏していた"Nothing Personal"をテンポは落とさずバックの音数を減らすことで新しい感覚で演奏したし、Ben WilliamsはLarry Youngの演奏で有名になったWoody Shawの"Moontrane"をGo-Goのリズムに乗せることでよりダンサブルにアレンジし、Chicago Underground DuoはOrnette Colemanの"Broken Shadows"をサンプリングやエフェクトによってよりカオスな世界へ到達させた。
演奏家たちは新たな楽曲だけでなくジャズレジェンドの楽曲を更新し、過去の楽曲からも新たなスタンダードが生み出されていく。
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